病院勤務時代、それほど悪くないのにもかかわらず、腰の痛みを訴える方がいました。
1人、2人だけではありません。レントゲンや血液検査、MRIをするもどこも悪くない。
少し腰の骨が変形している程度でしたが年齢的には年相応の状態でした。
階段の上り下りも問題なし。
外で歩いている姿を見かけても痛そうに歩いていないのでとても不思議でした。
20代の頃は、そのような人たちを少しでもよくしてあげたいという気持ちがあって色々な可能性を考えて鍼治療を行っていました。
色々なやり方を試してもよくなりません。
こちらが一生懸命治療をすればするほど、なぜか患者さんから「あの先生を担当から外して欲しい」といわれることが続きました。
これは当時の自分には、ほんとうに謎。
これほどやっているのに、「なぜ?」という気持ちがありました。
痛いと言うのことが仕事の人
その後、他の先生に担当が移りましたが、その先生は特に状態の説明は行わず、淡々と鍼治療を行っていました。
患者さんは相変わらず、「痛い、痛い」と患者さんは訴えていました。
「なんで?、何も考えていないしアドバイスしていないのに」不思議。
ある日、私が「どうしてでしょうか?」と先輩に話すと、こう言われました。
「中島先生、仕事とったらアカン」 「あの人たちは、病院で痛いということが仕事。治したらアカンねん」
当時のぼくは、そのような人がいるということに驚きました。
みんな治したい。よくしたいから、病院に来ているんだと思っていたら違っていたのです。
本当は、治りたくない人たちなのです。
もちろん、全員がそのような気持ちで病院に来ているわけではありません。
痛みがとれてよくなりたいという人がほとんどですが、痛みということで構って欲しいという人がいるのです。
今なら、とても理解できます。
痛みには置かれている立場、環境を影響する
「痛み」というものは、その人の、環境、立場、性格、心理状態が大きく影響します。
環境というものは、生活環境や仕事になります。
患者の中には、家庭や仕事に大きな問題を抱えておられる方もいました。(ここでは書けない内容がほとんど)
最近の研究では、痛みは情動が影響することが分かってきました。
情動というものは、感情の激しい動きこのことです。
悲しみ、恐れ、不安、怒りなど。
ここをいかにコントルールするかが慢性痛のポイントになります。
慢性痛になれば、自分自身を追い込む、「破局的思考」という状態にもなります。
このような状態になれば認知行動療法、運動療法、セルフケア(痛みへの知識を持った上での)が必要になります。
当時のぼくは、患者の表面的な部分しか診ていなかったのです。
よく「症状ではなく、その人を診ろ」という話があります。
患者さんの立場や社会的環境や心理状態が大きく、痛みに影響を当てえます。
あれから20年以上経ち、今ではそのような方への対処の仕方の知識も増えました。
鍼灸の分野でも、慢性痛の状態に合わせた治療のやり方も分かってきました。
私の鍼灸院でも、痛みの状態に合わせた鍼治療を行うと、よくなる方が増えてきました。
病院には、情動が影響していると思われる慢性痛の患者は相変わらず多いと聞きますが、まだまだ対応ができていないのが現状のようです。
薬だけではなく、トータルな対応が必要です。